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プロレスときどきサッカー。素人の思ったことつれづれ。

ある39歳の肖像としての藤田ミノル

あの熱量はなんだったのだろうか。10.2。ガンプロが後楽園初進出を果たした日、僕は幸運にもあの空間にいることができて、あの空気を体感する事ができた。

「興行としては普通。ただ、磁場が狂っていた。」とは、この日の第一試合にも登場したさくらえみがその夜市ヶ谷で語った鋭い評だが、ポジティブな意味でもこの日の出来事を見事に表現していると思う。

その異様なテンションはメインで最高潮を迎える。エントランスのBAD COMMUNICATIONの大合唱で大家健率いるガンプロ軍を後押しする会場。そんな雰囲気すら飲み込まんとする大仁田厚(と保坂秀樹)の存在感。その強大とも云える邪道のオーラに立ち向かう大家健に、きっと観衆の一人一人は自分の姿を重ねて、虚勢のような勇気を奮い立たせたのだ。だからこそ、炎のスピアで大家が3カウントを奪ったとき、最大級のカタルシスが訪れたのだと思う。

再びBAD COMMUNICATIONがヒットしたときの地鳴りのような歓声と熱気は、まさに磁場が狂っていたと表現するに相応しい。

さて。

興行のピークは間違いなく今書いたメインイベント。まるで最終回みたいなエンディング、しかも最大級のハッピーエンドだったわけで、それは疑う余地もないのですが、あの興奮から一ヶ月ほどが経過した今もふと思い出してはその意味を考えたりしてしまうのは、セミファイナル、そう、藤田ミノルと元奥様である前村早紀との一戦です。

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藤田ミノルがガンプロに初参戦したとき、自身が結婚して二人の娘がいる事、でも今は離婚し独りで暮らしている事などを試合後のマイクで告白します。以後、トモダチ軍として大家のガンプロ正規軍と抗争を開始するのですが1年の長きにわたり続いた抗争劇は、藤田が大家との一騎打ちに敗れピリオドが打たれます。そして「俺はとっくにあんたに救われていた」とこぼした藤田ミノルのマイクは毒気が抜けたような、それでいてどこか少しさみしそうな、そんな印象を持ちました。

藤田ミノルとのエピソードはこれで終了し、ガンプロのメインストーリーはまた別のところで動いていくのだろうなあとなんとなく思っていたところに、発表された元夫婦がリングで合間見えるという異常事態。家庭の事情を赤裸々にマイクで語り出す事で始まった抗争劇の真のエンディング、もしくはボーナストラックがよもやこんな形で用意されようとは。藤田は当日を迎えるまで、いや、当日試合中でさえ、この試合の正確な意味を明確に定義づけられなかったのではないでしょうか。

それは見ているこちらも同じでどうしたらいいかなんて分かるわけもなく、手探りの中試合は進んでいきました。前村選手はブランクのせいもあってか時折息があがっているようにも見えましたが、なんとか必死に食らいついていきます。それがこの非現実的な試合にある種のリアリティを付加していくのでした。

試合も中盤を迎えた頃、観戦に来ていた娘さんの「ママーっ」という叫び声がホールに響きます。おそらく藤田ミノルと同じように僕も、どう処理すべきかわからないからなんとなく笑ったみたいになるしかありませんでした。話題性、興味本位、そういう気持ちで見始めたこの試合だったかもしれませんが、これは凄いものを見ている。と、キツすぎるドキュメンタリーのように、自分は第三者として観ているだけのはずなのに、様々な痛みが伝わってくるようでたまらなく息苦しい。そんな認識に変わっていきました。

試合は藤田ミノルのサヨナラからのカバーをパートナーのバンビがカットしたところに円華がアシストして最後は前村さんの低空フランケンその名も「孤独じゃないよ」でフィニッシュ。

試合後のマイクは前村さんから「一生プロレスやってろ!」という藤田ミノルへのエール。握手の後一礼して二人は別々の方向へ歩いてリングを降りる。

バックステージで藤田ミノルは言います。

まあ……これから頑張るって言っても、足とかヒザとか腰とか悪いところばっかりだし、コンディションさえいいとは言えないですし。でもね、僕今年39(歳)になったばかりなんですけど、3年、4年くらいか。43(歳)くらいまでにもう一度プロレス界で、誰しもが認める中央で、プロレスラーとして……まあガンバレ☆プロレスが端っこだからダメというわけじゃないですけど、本当にプロレス界でもうひと勝負……もうこの格闘技で聖地・後楽園ホールで、もう在るべき姿の試合でキッチリと結果を残して、もう一度藤田ミノルという存在を全うな状態でプロレス界に知らしめるように…知らしめます! やります! 腹が決まりました、今日で。ありがとうございました。すみませんでした!

39歳にもなると、そりゃあ色々ある。それは本当だ。なぜ本当かと云えば私が39歳だからわかるのです。

ここまでのシチュエーションは訪れずとも、39歳の日常では一部の逸材を除き順調にいかなくて限界を知ることばかりである。でも、あるものでやっていく術を知り、己のやり方でやっていく、いかざる得ないことを知るわけです。そのむやみに期待できない世界の中でどこを目指すのかという話はとてもつらくて本来は視界の端で捉えてはいるものの、まっすぐに目を向けたくはないのです。

でも、この試合を経てそれでも中央を目指してやっていくと藤田は云いました。これはもう39歳が本気で感情移入してしまうビルドゥングスロマンです。何かを為し得るのか、為し得ないのかは正直分からないのですが、もう、この、なんというか、生き様の切り売り感は正直見ていてキツさを覚えるのですが、その圧倒的なリアルさにはとにかく心を揺り動かされます。

藤田ミノル選手の今後は、割と人ごとで無い感じで私静かに応援したいとおもっております。